動物心理学から錯視の研究へ

  

北岡明佳先生(立命館大学総合心理学部)

 

 

 

 現在、私は立命館大学総合心理学部の知覚心理学の教員として、錯視の研究を進めている。錯視の研究だけでなく、錯視をデザインして、インターネットも活用して広報しているから、どこかで私の作品を見たことがある人は少なくないだろう。特に、静止画が動いて見える錯視と色の錯視の種類を増やし(要するにウケる錯視を増やし)、それらの作品を多く公開してきたことから、一般の人の錯視に対する関心を高めることに貢献できているのではないかと自己評価している。このように、私の仕事はうまいこといっているわけであるが、もともと私は知覚心理学の研究者だったわけではない。大学院では動物心理学だったのである。ネズミの研究である。ラット(大きい方)とマウス(小さい方)の両方である。ちなみに、パソコンのマウスは、ラットとマウスの中間くらいの大きさである。研究テーマは、ネズミの穴掘り行動(burrowing behavior)であった。穴掘り行動は巣作りの一種のように思われていて、実際にメスがよく穴を掘るのであるが、オスも穴を掘ることを見出した。私は(というか藤田統先生の研究室は)、この穴掘り行動と情動性(emotionality)(臆病さ)が正に相関することを見出した(北岡, 1991; Kitaoka, 1994; Fujita, Annen and Kitaoka, 1994)。すなわち、パーソナリティの動物実験研究だったのである。このように、なかなか筋のよさげな研究からスタートしたにもかかわらず、今は錯視研究の人として昔から知覚をやっているような顔をしているのはなぜなのかということを、錯視研究の試行錯誤の話などを織り交ぜつつ、ぼちぼち語ってみたい。

 

 

 

北岡明佳 (1991) 生態場面と実験室場面におけるラットの情動性の研究 教育学博士号取得論文(筑波大学) http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3093297(国会図書館デジタルコレクション)

 

Kitaoka, A. (1994). Defensive aspects of burrowing behavior in rats (Rattus norvegicus): A descriptive and correlational study. Behavioural Processes, 31, 13-28.

 

Fujita, O., Annen, Y., and Kitaoka, A. (1994). Tsukuba High- and Low-Emotional strains of rats (Rattus norvegicus): An overview. Behavior Genetics, 24, 389-415.